大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)609号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

株式会社の取締役または監査役であつた者に対して支給される退職慰労金は、それが在職中の職務執行の対価であるときは、商法二六九条(同法二八〇条によつて監査役に準用される。)にいう報酬に含まれるものと解されるところ、同条が、報酬は定款にその額を定めないときは株主総会の決議をもつてこれを定めるべきことを要求した同条の立法趣旨に照らすと、株主総会の決議により、右報酬の金額などの決定をすべて無条件に取締役会に一任することは許されないというべきであるが、これと異なり、株主総会の決議において、明示的もしくは黙示的に、その支給に関する基準を示し、具体的な金額、支払期日、支払方法などは右基準によつて定めるべきものとして、その決定を取締役会に任せることは差しつかえなく、かような決議をもつて無効と解すべきではない(最高裁昭和三八年(オ)第一二〇号、同三九年一二月一一日第二小法廷判決、民集一八巻一〇号二一四三頁参照)。

これを本件についてみるに、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の認定した事実は、(一)本件退任役員に対する退職慰労金は、その在職中の職務執行の対価として支給する趣旨を有しており、(二)従来被上告会社においては、退任役員に対する退職慰労金の支給に関し、原判示の慣行および内規によつて一定の支給基準が確立されており、右支給基準は株主らにも推知しうべきものであつて、(三)本件決議は、本件退任役員に対する退職慰労金について、黙示的に、右支給基準をもつて限度とする範囲内において、各自の在職中の功罪、退職理由など種々の事情を考慮し、相当な金額を支給すべきものとする趣旨であつたというのであり、右事実は、挙示の証拠により首肯することができる。そうすると、かような事実関係のもとにおいては、本件決議が前記法条に違反して無効であるとはいえないとした原審の判断は正当であるというべきである。

原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例